▶︎ 取材&文&写真:別府大河
名前は、「Spisehuset Rub & Stub」。
NPO(非営利団体)によって運営され、デンマーク難民委員会にも参加している。
目的はただ一つ。
食品廃棄物と戦うこと。
食産業から生まれた〝ゴミ〟を利用して、コペンハーゲンからゴミを減らす活動をしている。
そんなクリエイティブで、途方もなくピースなレストランを取材した。
(英語版サイトはこちらから)
-01-
〝ゴミ〟レストランへ!
デンマーク人の友達に「面白い場所ある?」と聞いて教えてもらったレストラン。
住所だけ調べて、とりあえず下調べなしでレストランに向かった。
カッコいい!!
後から聞いたところによると、この建物なんと築300年以上!
コペンハーゲン市内の中でも有数の歴史的建造物らしい。
店内へ。
デンマークらしいシンプルなオシャレを演出するレストラン。
メニューはどうやら3つ。
一番上のを注文すると、店内を見て回る間もなく食事が。
はやっ!!
スタッフから一言、「おかわりは自由よ」。
おいしい!!!
この後、おかわり2回(笑)。
食べ終わると、スタッフを見つけて直撃取材へ。
「ちょっと時間いいですか?」と声をかけると、「10分だけね」とスタッフのマリアさん。
まず、食事はおいしい。
でも何が面白いのだろうか?
「友達に面白い場所教えてって聞いたら、ここを紹介してくれたんだけど、何が特別なんですか?」
「そんなことも知らずに来たの?
あなたが食べた食材の40%は〝ゴミ〟よ」
(えっ、えーーーー!!!)
「ゴミ」と聞いて驚いたが、ちゃんと厳選された〝ゴミ〟が寄付され、使われているという。
形が悪くて売れない農作物だったり、生協やスーパーマーケットで賞味期限切れになった商品だったり。
「私たちは、食料廃棄物と戦っているの。
だから食べ物のゴミを減らす活動をしているの」
このレストランのポイントは5つ。
非営利、ボランティア、日替わりメニュー、おかわり自由、持ち帰り自由。
「おかわりも持ち帰りも自由。
いっけん矛盾するように思うでしょう?
でも、ゴミを出さないことは、消費しないこととは違う。
消費しながらもゴミを減らせるサステナブルな道がある、と私たちは信じているの。
その代わり、メニューはその日にならないとわからない。
当日にならないと、どんな〝ゴミ〟が調達できるかわからないから、メニューを前もって決められないの。
もちろんこちらの一方的な都合だけど、お客さんとしてもリアリティがあって面白いでしょう」
このレストランは2013年秋にオープンし、最初の1年半で3.5トンもの〝ゴミ〟を生き返らせたという。
食事の中の〝ゴミ〟の割合は現在平均40%。
この割合をあげようと日々挑戦中だという。
また、ベジタリアンメニューも必ず毎日用意し、どんな人にも食事を楽しんでもらう工夫をしている。
-02-
「物質」ではなく、
「物語」を消費して前進する
ここで一つの疑問が。
このレストランはどのように運営されているのだろうか?
「私たちは非営利組織。
私たち主要なスタッフ4人以外、すべてボランティアによって成り立っているの」
スタッフの内訳は、2人のキッチンリーダー、フロアマネージャー、プロジェクトマネージャー。
ボランティアスタッフはなんと120人いるんだとか。ものすごい人数……
では、どんな人がここで働いているのだろうか?
「モチベーションは人それぞれ。
時間が余ってる人、シェフとして訓練したい人、社会問題に問題意識がある人、いろんな経験を積みたい人、コミュニティに身を置きたい人…」
「食料廃棄物が大問題だって当たり前だよね。
誰だってわかる。
そういうコモンセンス(良心)によってこのレストランは成り立っているの。
従業員もボランティアもお客さんも、みんなこの社会問題と戦っているのよ。
だからなんとなく働いているのとは違う。
私ももともとボランティアとして入ったんだけど、途中で雇ってもらって、今では仕事をしながら仲間と戦って。
何より、食べに来てくれるお客さんを見るのが本当にうれしくって。
そこにはおいしい以上の何かがあるから」
「食料廃棄物」という物語に、仲間が集まる。
そして、一人ひとりの求めるものは違えど、同じ大きな目標に向かって共に前進していく。
「誰もこうしろ、ああしろと強制したりはしないの。
関心が強い人はボランティアとして参加すればいいし、そこまで関心はないけど問題意識が少しでもある人は消費者として参加すればいいから」
やさしさや想いをシェアできる仲間がここに集い、コミュニティが生まれる。
だからだろうか。
このレストランはとても温かく、居心地がよくて、ピースなのだ。
-03-
〝Less is More〟
私たちの信じる道
「私たちは、〝Less is More〟を信じているの」
「このレストランは、革新的な食料廃棄問題の解決法を提案しながら、新しい価値観を作ろうとしているの」
ゴミ排出大国、日本。
20世紀型の物質至上主義的な資本主義に飼いならされたぼくらは、どうしても物質的な豊かさと精神的の豊かさをイコールで結んでしまいがちである。
しかし、このレストランはその価値観に真っ向から反対する。
「少ないことはより豊かだ!」と。
マリアさんは最後にこう付け足した。
「これって、ものすごくデンマーク的な価値観なんだけどね」
コペンハーゲンで出会った、21世紀型の革命的なレストラン。
常識や固定概念にとらわれず、自分の信じる豊かな世界を実現しようとする。
そんなレストランはどの角度から覗いてもどこまでもやさしく、ピースで、とても美しい。
デンマークの人々の根底に流れる、自由と寛容性、それと共生の精神。
その文化の上にクリエイティビティを開花させ、食料廃棄問題という闇に希望の光を照らす。
ここからやさしい革命が始まる。