気鋭のデザイナー集団に聞く「なぜデンマークはデザインに強いんですか?」

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Mariano Alsandro

デザインというと、様々なものを思い浮かべる。家具やインテリア、さらには都市や社会まで。北欧にはオシャレなイメージがあるが、デンマークはどのデザインをとっても優れているように思える。そこで、世界最大規模のデザインアワードを主催するデザイナー集団にその理由を伺った。そこから見えたのは、未来におけるデンマークの可能性だった。

 

Mariano Alesandro

Mariano Alesandro|マリアーノ・アレサンドロ

INDEX: Design to Improve Life
Head of Future Thinking & Technology

アルゼンチン出身。バックパックでデンマークを訪れ、デンマーク最大級の音楽祭、ロスキレ・フェスティバルにボランティア・プログラマーとして参加。そこでデンマーク人女性に恋に落ち、そのまま移住。その後、広告代理店を経て、2010年にINDEXに入社。

INDEXでは、テクノロジー分野を主に担当。未来について考える部署のリーダーも兼任。

ホームページはこちらから。

▶︎ インタビュー&文&写真:別府大河

INDEX: Design to Improve LifeINDEX: Design to Improve LifeINDEX: Design to Improve LifeINDEX: Design to Improve Life

―01―
Design to Improve Life
“inspire” “educate” “engage”

INDEX: Design to Improve Life

――INDEX: Design to Improve Lifeは団体名に理念が書いてあってわかりやすいんですが、何をやっている組織なんですか?

INDEXは、グローバルな課題に対して持続可能なソリューションをデザインするために、人々をinspire(喚起)し、educate(教育)し、そしてengage(関わりあう)するNPOです。僕たちの仕事は、ソーシャルデザインといって、人々の生活をよりよくするためのデザインを生み出すこと。

この組織は非営利団体なので、運営は政府から資金によって成り立っています。というのも、政府は世界の中でデンマークをデザインで優れた国として位置づけたい、ブランディングしたいという思惑もあるので、すごく協力的なんですよ。

――人々を「喚起」し、「教育」し、「関わりあう」。どんなことをやっているんですか?

INDEXは2002年に設立され、現在、世界最大のデザインアワードを2年に1度開催しています。賞金はなんと50万ユーロ(≒7,000万円)。これが、人々への「喚起」の部分です。

今年は、世界中から1123作品がノミネートされ、100作品前後がファイナリストに。そして、その中から5つの賞が送られ、世界中で開催する展覧会でファイナリストの作品が展示されます。

「教育」は、デンマークの各地方自治体と連携して、人々の生活をよりよくするためのデザインを教育の現場に応用しています。

たとえば、デンマーク北部のヘルシンガーの小学校で進行中のプロジェクト。これまでの教える、教わるという一方向の構図ではなく、もっと相互的な関係を構築して多角的に考え、議論できる教育をデザインしています。

最後に、「関わりあう」。つまり、お金を動かして、実際にアクションを起こすこと。

デザインアワードのファイナリストにコペンハーゲンに1週間来てもらい、スタートアップを支援する企業AcceleraceやThe Boston Consulting Group (BCG)に、「アイディアをどうやってビジネスに落とし込むか」を講義してもらったり、相談に乗ってもらう。そして、最後には投資を受ける機会もあります。今では一躍有名な企業となったSkypeも、ここから始まったんですよ。

INDEX: Design to Improve Life

―02―
デザインに大切な3つのこと
「形態」「効果」「文脈」

INDEX: Design to Improve Life

――デザインってすごく抽象的な言葉だと思うんですが、デザインする上で大切なことは何ですか?

INDEXは、フォーム(形態)、インパクト(効果)、コンテクスト(文脈)を最も重要な要素だと捉えています。デザインアワードの評価基準も、この3つそれぞれの総合点によってされるんですよ。

たとえば、2007年にアフリカで実施されたあるデザイン。アフリカはなかなかインフラが整っていないので、村まで水が十分に行き渡りません。なので、村の女性たちは、水を汲むためだけにわざわざ2時間も歩き、さらに帰りは水を担いでその道を戻る、というとても大変な仕事を抱えている。

そこでデザインされたのが、担ぐ代わりに転がしながら運べる、ボールのような容器でした。一度に大量の水を、素早く、ラクに運べるようになり、当初はとてもイノベーティブなアイディアだと、ものすごく高く評価されて。けれど、実際に無料で配ってみると、誰も使ってくれなかった。

その後にわかったのは、村の女性は水を運ぶことが生活の楽しみだった、ということでした。長時間家から離れることで、一人の自由時間を満喫できる。水汲み場では、普段は会うことのない他の村の女性たちとも仲良くなれる。

――効率を必要としていなかったどころか、非効率的だったがゆえに幸せだった。

僕たちの、先進国的な、西洋的な偏見からよかれと思ってやったことが、相手にとって不都合になってしまった、典型的な事例ですよね。フォームは画期的だったけど、コンテクストを理解していなかった。だから、インパクトを与えられなかった。

相手の立場に立ってデザインすることって、ものすごく大切なんです。この3要素は、どれも等しく大切で、一つも欠いてはなりません。

―03―
冬を乗り切るためのヒュッゲ
ヒュッゲのための豊かなデザイン

INDEX: Design to Improve Life

――デンマーク人はなぜいろんなものをデザインするのが上手だと思いますか?

デザインに関しては、昔から今ほど上手だったわけじゃなくて、ソーシャルデザイン、ソーシャルイノベーションが発展したのは、僕たちのような活動が、ここ数十年で実を結んだからだと思います。

ただ、もう一方で、たしかにデンマーク人はもともと得意だったと僕も思います。デンマークというより北欧の冬は、朝9時からやっと明るくなって、昼15時頃にはもう真っ暗。外は死ぬほど寒いし……ヤバいですよね!!(笑)

――本当ですよ(笑)。人柄も夏と冬でまったく違いますからね…。

そんな環境にいたら、「どうやって冬を楽しもうか」と考えるようになるのは自然なことかなって。それこそ、コンテクストですね。

たとえば、デンマークには「Hygge(ヒュッゲ)」という言葉がある。人との触れ合いから生まれる、温かくて、居心地がいい、幸せな雰囲気のこと。デンマーク人はとにかくヒュッゲが大好きで、家でくつろいだり、友達とカフェで長居したり、夏なら公園でワインを飲んだりする。

そこにはキャンドルの灯りがあったり、座り心地のいい椅子があったり、オシャレなインテリアがあったり、部屋を暗めに調節したり、リラックスできる音楽を流してみたり。ヒュッゲを演出するには、デザイン的な発想を持たざるを得ない。そういうところからデザインが豊かになったんだと思います。

INDEX: Design to Improve Life

―04―
良い職場は、良い価値観から

INDEX: Design to Improve Life

――デザインと言うと、このオフィス、中庭を含めて、ものすごくカッコよくて、社員の雰囲気もいいですよね。ここは一体どうなっているんですか?!

日本にはないですか? たしかにこのオフィスは特にカッコいい方ですが(笑)、デンマークにはこういうオフィスはけっこうありますよ。メンバーはインターン生を含めて20人、正社員は8人しかいないけど、働き心地は最高で、すごくいい雰囲気で仕事をしていますね。

勤務時間は、基本的に9時から17時まで。一人ひとりがそれぞれのプロジェクトを抱えていて、僕は今、今年のアワードのためのサイトを2週間以内に開設しなければならない。

けれど、仕事は個人主義なので、仕事ができるなら何をしていてもいい。中庭でのんびりしたっていいし、こうやってコーヒー片手にあなたとおしゃべりしていても、誰も何も言いません。

INDEXでは、上司から「これをやれ!」と言われて、制限時間内にやっているのではなく、自分から仕事を見つけてやるスタイル。僕たちのCEOは、CEOだけどボスじゃない。

僕はアルゼンチン出身ですが、アルゼンチンでは社長には社長室があって、上司の言うことは絶対でした。アジアも同じかもしれませんね。

でも、デンマークはそういうことは少ないし、INDEXではまずあり得ない。CEOはみんなと同じ机に座って仕事をするし、イベントの時は一緒に掃除もする。とてもフラットな関係なんですよね。

――オシャレなデザインも手伝っているのかもしれませんが、こういう雰囲気の職場になるのも納得です。

いい仕事環境を作るには、まずは誰とでもフラットに付き合える、尊敬し合える価値観が必要だと思います。そしたら、オフィスの机の配置、座り方、デコレーションなど、物理的なものごとは、自然と後から変わってくる。

もっと言うと、毎日のようにGoogleで検索して、Facebookで「いいね」を押して、移動手段ではUber(タクシー配車サービス)を使ったり、旅先ではAirbnb(空き部屋仲介サービス)を使う。その中で、もうすでに僕たちの価値観は変わりつつあると思います。

情報やサービスは小数の人による独占から解放され、フラットな世界が実現し始めていますよね。その内側のGoogleやFacebookといった会社も、ほとんどが少数精鋭で、上下関係の少ないチーム。もしかしたらオフィスにいなくても、遠隔での作業が許される会社もあるのかもしれない。

それなのに、企業の組織構造や価値観が変わらないのはおかしいと思っていて。実際に、IBMやマイクロソフトという大企業も、今はそういう組織や職場環境に変えようとしているんだとか。ただ、そうなるには、もっと確固とした価値観、マインドセットを先に確立しないといけないと思います。

―05―
全体を考えるデンマーク
情報化社会における可能性

INDEX: Design to Improve Life

――企業の組織やワークスタイルにも関わることですが、情報化が進んだ世界において、デンマークは一つのロールモデルになると僕は思っています

GoogleもFacebookも、もはや一国の規制やルールを適用できない。Amazonだって日本政府は税金の回収に困っている。そういう世界で、デンマーク人の「共生」の感覚や「自由で寛容、それでなんとなくピース」という社会のあり方がすごく大切だと思っていて。

僕もそう思いますね。デンマーク人は常にどこかで全体のことを考えていますよね。偏見かもしれませんが、アメリカなどの資本主義色の強い国では、「脱税したってバレなければ構わない」みたいな風潮がないことはないと思います。いわゆる“成功者”が脱税や汚職で捕まることもありますよね。

それに対して、デンマークでフリーライダーは許されません。実際、デンマークは汚職が世界一少ない国という統計も出ています。

国民の高い水準での合意に基づいて社会が成り立っているので、お互いに対して信用がある。なので、「高い税金を払ってでも社会に貢献しよう」という人がすごく多くって。福祉国家というあり方が人をそうさせている面もあるかもしれませんが、こういった価値観や精神性は、これからの社会で大切になると思います。

それを体現しているのが僕たちの会社であり、この職場だとも言えますね。仕事は信用によって成り立っていて、仕事内容も、人間の生活をよりよくするのが目的ですから。もともとは旅で訪れたデンマークですが、今では大好きだし、ここで働くのがものすごく楽しい! そういうことを改めて考えると、デンマークからデザインできる未来があると僕は思います。

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