「それでも原発を続けますか?」デンマークの「ミスター・エネルギー」が日本のエネルギー事情に切り込む

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Leo Christensen

「日本は20年以内に脱原発できる」――「腐ったバナナ」と呼ばれたロラン島を、自然エネルギー100%、自給率600%へと奇跡的な復活を主導した彼はそう断言する。3.11以降数回に渡って来日し、視察や講演会を行うなど、復興のキーマンとしても注目を浴びている。そんな彼が、エネルギーの初歩的な知識から日本の問題点、そして脱原発までの道筋まで、わかりやすく解説する。

 

Leo ChristensenLeo Christensen |レオ・クリステンセン

ロラン市議会議員

通称「ミスター・エネルギー」。エンジニアとして世界を渡り歩いた後、1998年にロラン島ナクスコウ市の公共事業部長に就任。過疎化や高失業率など様々な問題を抱えていたが、大手風力発電メーカーの工場誘致などの奇策が功を奏し、ロラン島を自然エネルギー100%の島へと導く。

これまで視察や講演に数回来日し、日本のエネルギー事情にも精通。

心筋梗塞を患って自身の命が危険にさらされた時も、日本のことを心配していた日本想いの熱く優しい男。

▶︎ インタビュー&文&現場写真:別府大河

Nielsen※ 本取材は、ニールセン北村朋子さんの通訳によって行われました(ニールセンさんの記事はこちら)。

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まずエネルギーの基礎を知ること

Leo Christensen

――日本では、0か1か、右か左かと、原発賛成と反対という短絡的な話が多く、その間にあるはずの本質的な議論がなかなか進んでいないように思います。いきなり漠然とした質問で申し訳ございませんが、日本はエネルギーとどのように向き合うべきなのでしょうか?

もう知っているかもしれませんが、話を始める前に、エネルギー問題を語る上での前提知識を確認しますね。

まず、電力は基本的には貯めることができません。発電したとしてもすぐに使わなければムダになってしまいます。そして、その発電の仕組みはというと、一般的にはタービンという回転式の原動機を回すことで電気を生み出します。

その上で、エネルギー源は、大きく分けて2種類あります。

一つは、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料、他にも原子力など。火力発電は化石燃料の燃焼によって、原子力発電は核分裂の発熱によって水を熱し、その蒸気でタービンを回して発電します。

いつでも燃やしてエネルギーに変えられる。その意味で、「貯められる」もの。ただし、化石燃料はいずれ枯渇するし、燃やせば二酸化炭素の他に有害物質も排出するため、環境への負担も大きい。原子力が危険なのは…ご存知ですよね。

もう一つは、風力や太陽光、水力、地熱、バイオマスなど、自然エネルギー、再生可能エネルギーと言われるもの。太陽光などを除けば、これらほとんどもタービンを回して発電するんですが、枯渇の心配がなく、地球にやさしいという利点があります。その反面、いつでも用意できるわけではないので、「貯められない」ものと分類できます。

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もちろん他にも違いはありますが、大雑把にこのような比較ができます。つまり、両者の補完関係を構築し、調節しなければならないということなんです。

――3.11以降、日本は原発の稼働を停止しましたが、その分はそっくりそのまま化石燃料にシフトしただけ。それでは根本的な解決にはなっていないと?

そうですね。日本は原子力からの脱却に向けて、どれくらいのスパンで、どんな割合でその比率を変えていくべきか。黒から白へ、その間に無限に存在する色を使って、どんなグラデーションを描くか。それを議論しなければならなりません。

―02―
あるものを最大限に!
「日本は潜在能力を秘めている」

Shibuya

――その補完関係を考える他に、やれること、考えるべきことはなんでしょうか?

まずは、節約の意味も込めて、今あるものを最大限利用できる仕組みに変えていくことじゃないでしょうか。日本はすでに潜在能力を秘めていると私は思います。

たとえば、日本は西日本と東日本でヘルツ数(電源周波数)が違いますよね。ヘルツ数が違えば電気を西から東へ、東から西へと送ることは不可能です。あとは、10の電力会社に分かれているために電気の融通が利きません。そういった仕組みによって日本はかなりの電力をムダにしていますね。

――原発廃止うんぬんの前に、エネルギーのムダを減らそう。その原因はシステムにあると。

原発だってそうです。火力発電にも言えることですが、実は投入するエネルギー源の4割しか電力に変えられないことはあまり知られていません。残りの熱、そのほとんどはただ排熱として捨てられているのが日本の現状。金銭的にも、環境的にも、エネルギーの半分以上をムダにしているとも言い換えられる。

では、排熱はどうすればいいか? たとえば排熱で木材や木質チップを乾燥させたら冬場の暖房のために「貯めて」利用できるし、温室の熱供給としても直接使える。熱交換をすれば、夏場に冷房として機能します。

日本には「エネルギー=電力」と考えがちですが、熱供給としての利用は日本にとって大切なヒントになると思います。

――たしかに今のお話を聞くまで僕もなんとなくそう思っていました。

あともう一つできることは、「貯められない」を「貯められる」に変換すること。たとえば、電気が余ったら、水を電気分解して水素をつくったり、水素と二酸化炭素と結合させてメタンガスをつくる技術だったり。ロラン島ではそういうことをすでに始めています。

――藻の研究もしているんですよね?

はい。藻を水の浄化などに利用することで、光合成で太陽光と二酸化炭素、それに養分としてリンや窒素、カリウムを吸収させる。その結果、成長した藻に含まれる高付加価値成分を取り出し、藻をガス化しエネルギーに変換。最後に残ったものにはリンなどが含まれているので、それを天然の肥料として畑に還す、という技術などを研究しています。

これによって、藻の光合成は太陽光と二酸化炭素を貯める役割を果たし、そしてガス化することでエネルギーとして貯めておくことができます。

今あるものからどれだけのことができるか、「貯められない」エネルギーや電力を何らかの形の貯めておけないか。デンマークで今まさに取り組みが行われていますが、それを考えることが大切だと思います。

―03―
「自分が」ではなく「日本を」

Leo Christensen

――きっと技術力では、日本も高いレベルにあると思うのですが、デンマークのエネルギー政策はなぜスムーズに進むんでしょうか?

まず忘れてはならないのは、デンマークは日本と比べて人口も産業もはるかに小さな国だということ。もちろんエネルギー消費量も桁違いです。

そんなデンマークでもすべてが順調に進むわけじゃありません。ここロラン島だってそう。たとえば、電力を水素に貯める研究開発はうまくいきすぎてかえって今足止めをくらっている、なんていう事情もあります。

ただ、デンマークが優れている点を挙げるとすれば、政府と国民、与党と野党の間で、大枠は同じ方向を向いていることです。たとえば、トリプルヘリックス、産官学の連携。

ロランの自治体は、再生可能エネルギーの実証実験の場として解放することで、多くの企業を誘致しています。さらに、大学や研究所が関わったり、企業が地元の市民を採用することで、産学官のそれぞれにとってポジティブな関係を構築する。島全体も活気づく。

デンマークという国全体も、国内の地方を取り上げても、連携をとったり協力し合う動きがあちこちで起こっています。

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――小さな対立を超越して一体となって取り組めば、それぞれにとってもプラスとなるということですね。

そうですね。デンマーク政府は2050年までに化石燃料からの完全脱却をエネルギー政策として掲げています。日本も同じように、政府と国民、政党間同士で合意を取って、原発を廃止する期限を確定させるべきじゃないでしょうか?

ある程度の痛みを伴うのは当然。ですので、一度そう決めてしまえば、政府と国民は寄り添って一体とならざるを得なくなる。なぜそのような話し合いをしないのでしょうか?

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「あとは変わるだけ」
大きな変化はもうすぐそこ

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――仮に数十年後に原発をやめることを国で決めたとします。その時、同時に、もしくは次にやらなければならないということは何でしょうか?

再生可能エネルギーが優先接続権を持ち、全量買い取りされることが法律として定められることだと思います。そう決めてしまえば、政府も先進的な技術をどんどん取り入ればければならなくなるので、イノベーションが起きやすくなる。政府や東電による、不可解な情報操作もなくなるでしょう。

他にもたとえば、日本では発送電分離の話が進んでいますよね。でも、ただ切り離したところで、発電、送配電、売電をすべて一つの会社が持てる状態だと、また独占状態になりかねません。

なので、デンマークが発送電分離をした時と同じように、発電、配電、売電うち2つしか(送電は政府の管理下)持てないようにして、独占や寡占を抑制する仕組みを導入することは日本でも有効な策だと思います。

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――日本では、2016年4月からの電力自由化も決まりました。

私は日本に講演に行く度によく言うことがあります。そう遠くはない未来に、日本に大きな変化が必ず訪れるということです。日本は産業も教育も、必要なベースは何もかもすでに持っているので、ものすごい速さでガラッと変わってしまうでしょう。その未来はそう遠くはないかもしれませんね。

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日本は20年以内に脱原発できる。

Leo Christensen

――日本は原発廃止に向けてどんな道筋を描けばいいんでしょうか?

実は、原子力発電の仕組みをざっくり俯瞰してみると、nuclear=核(原子力)の部分は全体のコストの20%にすぎません。それ以外の部分、つまりタービン、発電機、変圧器、送電などが残り80%を占めます。そこで私には一つの案があります。

原発を廃止すると言っても、すべてを処分する必要はありません。核(原子力)の部分だけ外して、風力やバイオマス、バイオガスなどを取り付けて、同じ量の電力を生み出せばいい。すでに持っている良質なタービンも、変圧器も、グリッドもそのまま利用すればいいんです。

これなら同時に、雇用問題も解決できる。電力会社の社員には引き続き仕事をしてもらえばいい。原子力の代わりに、グリーンエネルギーの仕事を。すでに彼らは発電のノウハウや設備がありますから、これまで通りの力を発揮してもらえばいいですよね。もちろん発電所も、流通も維持しながら。

原子力発電から再生可能エネルギーへと移行したとしても、同じ量の電力があり、同じ場所で同じ量の仕事があり、電力会社が存続する。経済的な対立はないので、平和的に変われるはずです。日本は20年以内に、原発から脱却できると私は思います。

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