岡村彩|Aya Okamura
ayanomimi 代表
デンマーク生まれ。コペンハーゲン商科大学大学院卒、在学中は慶應義塾大学、スペイン・コルドバ大学に留学。
2009年に本社を設立。コペンハーゲンを拠点に企業のためのビジネスコンサルティングや日本とデンマークを繋ぐ企画プロデュースを行う他、イベントやセミナーを主催する。
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▶︎ インタビュー&文&現場写真:別府大河
▶︎ 写真提供:ayanomimi

「デンマークの暮らしとテクノロジー」(SYNQA ITOKI 東京イノベーションセンター、Tokyo)

「日本とデンマークのフュージョン屋台」(Power Place, Tokyo)
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北欧ブームにはわけがあった!

「2世代のケアホルムと日本展」(A.Petersen Collection & Craft, Copenhagen)
――日本はいま北欧ブーム。日本とデンマークをつなぐビジネスをされている岡村さんですが、それには何か理由があるんですか?
私はクリエイティブな分野の仕事が多いのですが、家具やインテリアが好まれるのにはそれなりの理由があると思います。
1870年くらいから、デンマークは日本のアートからものすごく影響を受けていて。当時、美術学校などで学んだ学生が日本文化を吸収し、今度はその人たちが先生となり、後に巨匠と呼ばれるようなデザイナーを大勢輩出した歴史があるんです。
だから、日本人がデンマークのインテリアを身近に感じたり、「心地いい」「カッコいい」と思ったり、北欧ブームが起きているのはただの偶然ではないと思います。
――1870年というと明治維新直後。そんな頃にすでに日本に注目していたのはすごいですね。
実はそんな頃からデンマークは日本のことが大好きだったんですよ。日本人はあまり知りませんが、相思相愛なんです(笑)。
デンマークはデンマークで、日本の「北欧」のイメージを把握できていない。企業が日本に進出したくても、どうすればいいかわからなかったり、日本企業とうまくコミュニケーションが取れなかったりして断念するケースも少なくありません。それってすごくもったいないですよね。
私は日本人の両親のもと、デンマークで育ったので、どちらの国のこともよくわかります。なので、日本とデンマークの認識のギャップを埋めたり、二つの文化の共通点や相違点を組み合わせて、新しいことを始める仕事に興味を持ちました。

「365日デザイナー展示&トークイベント」(OZONE Living Design Center, Tokyo)
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デンマーク育ち。でも私は日本人

「デンマークの暮らしとテクノロジー」(SYNQA ITOKI 東京イノベーションセンター、Tokyo)
――岡村さんご自身のお話を伺わせてください。日本とデンマークをつなごうと思ったのはなぜですか?
小さい頃から近所の幼稚園に通って、学校でも毎日デンマーク語でした。でも家に帰るとすぐに日本語に切り替えて、読み書きも両親によく教えてもらいましたね。父は家具デザイナー、母もクリエイティブな仕事をしていたので、家にいることが多かったんですよ。
私が小学生の頃は、週末になると日本からの留学生がよくうちに来たり、仕事で立ち寄る人も多かったので、家族とは別に日本の人と接する機会もありました。
よく覚えているのは、年に一度の日本への一時帰国。日本の文房具やお菓子をデンマークに買って帰っては、学校で友達に配りました。そしたらみんなすごく喜んでくれて。それがいつも自分のことのようにうれしかったんです。
だから、昔から日本という存在が近かったし、日本人でよかった思い出ばかりなんですよ。考え事をする時も、デンマーク語を話す時も、いつも日本語がベース。今こういう仕事をしているのは自然なことで、自分自身の強みを最大限に活かせると思い、起業しました。
―03―
デンマークは今、起業がアツい!

「2世代のケアホルムと日本展」(A.Petersen Collection & Craft, Copenhagen)
――福祉国家のデンマークで起業するって、いいことばかりだとは思えないんですが、どうなんですか?
そうかもしれませんね。デンマークは労働者を優遇する税制なので、お金を稼いでも半分くらいが税金で取られたり、お金を儲けることが動機になりづらい仕組みなので、経営者の負担になりやすいと思います。
他にも、ヤンテロー(ヤンテの掟、Janteloven、Law of Jante)というものがあって。小さい頃に教えられる十戒みたいなもので、「自分を特別だと思うな」「他人より優れていると思ってはならない」という内容。最近は「あんなのは古い」という風潮がありますが、それでもやっぱり何かチャレンジする時の足かせにならないとは言えませんね。
とはいえ、たとえ失敗しても何度でもやり直せる、国がいつでも助けてくれる仕組みは心強い。税金が高い分、失業保険はかなり充実していますからね。もっと言うと、デンマークは今、国家的なプロジェクトとして起業家戦略というものがあって。
デンマークの人口は日本の約4%、兵庫県の人口とほぼ等しい小さな国。大企業に雇用を依存する状態でまたリーマンショックのような大不況がやってきたら致命傷になりかねない。中小企業を増やす方針を取ったというより、取らざるを得なかったのかもしれません。
国は特に若手起業家の育成に力を入れていますが、もちろん大学生のスタートアップは長くもたいないことも少なくありません。それでも、たとえダメになったとしても在学中にそういう経験を積めるのは貴重だし、自分の適正とかも知れますよね。
――日本は新卒採用があったりして「まずは会社に入れ」という雰囲気があるんですが、デンマークは逆なんですね。大学はどういうサポートをしてくれるんですか?
大学内に起業を支援する組織があります。私も起業した当初すごくお世話になったんですが、インキュベーションオフィスを無料で使えたり、経理士を紹介してくれたり、アドバイザーが相談に乗ってくれたり。設備が本当に充実していて、ネットワークも広げられる。
最近は、私の母校から毎年100社くらい生まれているらしいですが、この制度の何がいいか、どこがデンマークらしいかというと、在学生か卒業生なら利用可能だということなんです。自分のバックグランドに関係なく、知りたい情報にアクセスできたり、学びたいことを学べる。「誰にも平等にチャンスがある」ということだと思います。
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個人主義と集団主義
その絶妙なバランスの中で

「365日デザイナー展示&トークイベント」(OZONE Living Design Center, Tokyo)
――平等というと、デンマークでは一人ひとりの意見がかなり尊重されますよね。あれはどこで養われるんですか?
中学校くらいから始まるグループワークで徐々に学んでいくんだと思いますね。私なんかはもともと意見を言うのが苦手で、グループでもおとなしい方でした。けれど、ある程度慣れてくると、「あれは苦手だけどこれは得意」「このチームならこんな役割が向いている」とわかってきて、自分の意見を言ったり、提案したり、他の人の意見を受け入れられるようになりました。
大学のテストは特徴的で、もちろん普通の筆記テストもありますが、グループでのプレゼンの他に、個々のテストがあったりして。グループなんだけど、最後は「個」みたいな。社会に出たら何でもチームワークだし、特にデンマークのような福祉国家では大切なスキルなんだと思います。
――なぜデンマークでは大切なんですか?
「誰にも平等にチャンスがある」って、逆に言うと、「自ら手を伸ばさなければ何も得られない」ということでもあるんです。参加しなければ意味がない。グループワークと似たところがあると思います。
こういった「平等」の考え方が国民に根付いているから、オープンにしたり、シェアすることがみんなうまくて。人口も資源も小さな国では、一人で独占するより共有した方が、結果的に大きなものを生み出すことをよくわかっている。
たとえば、私のシェアオフィスも、マニュアルとかルールはどこにも書いていません。「あえて書かなくてもわかるでしょう」「わからなかったらまわりの人に聞けばいい」という感じで、すごくオープン。
たしかにデンマークは、一人ひとりの意見が強いという意味では個人主義。だけど、福祉国家としてみんなでこうしよう、ああしようと話し合うと、気付いたらなんとなくまとまって、上手い具合に足並みを揃える。小さな国だから保てるのかもしれませんが、デンマークはそんな絶妙なバランスを持った国だと思います。