「日本の花が一番好き」と語るニコライ バーグマン。和とデンマークの融合で職人文化を後世へ


日本で最も活躍しているデンマーク人の1人、フラワーアーティストのニコライ バーグマンさん。和と北欧のテイストが融合された見事な作品の数々は、日本全国に存在する〝職人がつくる花〟があるからだと彼は語る。約20年の日本での生活を経て、彼は今、何を考えどんな未来を描いているのか?クリエイティブ業界の第一線で活躍するニコライさんが考える、デンマークと日本の美のあり方の違い、そして世界に誇る日本の職人の可能性に迫る。

 

Nicolai Bergmann|ニコライ バーグマン

フラワーアーティスト

1976年、コペンハーゲン生まれ。2001年に自身のフラワーブランド「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン」を創設。2010年、南青山にカフェやフラワースクール
を併設した旗艦店「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン フラッグシップストア」をオープン。現在、国内外に12店舗を展開し、世界中で様々な活動の場を広げている。

2017年5月には、花や葉、枝など植物の美しさを永遠の輝きへと結びつけた新ブランド「NATUR & NICOLAI BERGMANN(ナチュア & ニコライ バーグマン)」をスタートし、南青山に旗艦店をオープン。
www.nicolaibergmann.com

▶︎インタビュー&文:岡安夏来
▶︎編集&一部写真:別府大河
▶︎TOP写真デザイン:山田水香
▶︎一部写真:浅利羽晶

ー01ー
デンマーク流「居心地の良い環境の作り方」

ーーデンマークでは、キャンドルを灯しリラックス出来る空間の中で、友人や家族とコーヒーやビールを飲みながらのんびりゆったりする時間やその習慣を意味する〝ヒュッゲ〟という言葉がありますよね。ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン フラッグシップストア(南青山に構えるニコライ バーグマンの旗艦店)の四季ごとにかわる店内も、デンマークならではの〝ヒュッゲ〟な空間を意識して作っていますか?

「ヒュッゲな空間」という意識はありませんが、デンマーク人が大事にしている「居心地のいい環境作り」は意識しています。たとえばデンマークだと、何もない退屈な平日でも日常的にキャンドルを灯しているんですよ。お祝いや特別な日でなくとも、誰かお客さんがくるからというわけでもなく。

朝起きてすぐ、日の出の昇る時間にキャンドルをつけることから一日が始まります。部屋の電気をつけるのと同じ感覚で、電気ではなくキャンドルを灯して過ごす。デンマーク人はこうやって居心地のいい環境作りを大切にして、創意工夫することを習慣としているんですよね。

ーーたしかにデンマークの友人宅へ行くと、どの家にもキャンドルが灯っていて、いつもほっこりします。花もキャンドルのように身近な存在なのでしょうか?

そうですね。デンマークの花屋では、月〜水曜日は比較的平穏で、木曜日くらいから忙しくなります。というのも、みんな休みの時間をより充実させるために、週末に向けて花を買うからなんです。

デンマークでは花屋に限らずラジオやテレビで水曜日くらいから、その週末に向けての話題がもう出てきますね(笑)。

ー02ー
〝好き〟は後から付いてくる
チャレンジし続けて見えたモノ

ーーニコライさんはもう約20年も日本に暮らしていますよね。どのようなきっかけで日本で活動されるようになったのでしょうか?

父が鉢物の卸をしていたこともあり、もともと花が身近な存在でした。他の業界も考えたんですが、やっぱり花が一番好きで、デンマークで花の勉強をしました。無事卒業が決まり、卒業旅行として、父の仕事の知り合いがいる日本に行くことにしたんです。

そこで、川越にあるフラワーショップを紹介してもらい、3ヶ月ほど研修生として働きながら、日本を旅しました。一度デンマークに帰ったのですが、結局、日本で働くために戻って来ました。

ーーなぜそうしようと思ったんですか?

正直、「日本が素晴らしいから戻りたい」といった気持ちはなくて(笑)。卒業旅行から帰国し、デンマークでの日常に戻っていくうちに、「やっぱり日本は刺激的で面白かったな」と恋しくなりました。それでその気持ちを抑えきれず、再び日本に行こうと。

デンマークって、安全で平和な環境が広がっていてすごく恵まれている。でもその一方で、チャレンジ精神はあまりなくて、「このままで満足」といった雰囲気があります。

それに対して、日本は何もかもがまったく違ったんですよね。初めのころは日本語もわからなければ、食事も合わないし(笑)。日本で暮らした19歳の私にとって、そんなデンマークよりも、新しいことにどんどんチャレンジする環境の方に惹かれたんですよね。

日本に戻ってからは、研修の時にお世話になったフラワーショップで朝から晩まで働きました。そこでいろんなことを経験していくうちに、自分の性格がわかってきたんです。私は、自分がつくった作品をみんなに見てもらいたい、褒めてもらいたいから一生懸命作品をつくる。そしてみんなを喜ばせることが好きで、作品を作る過程で新しいインスピレーションを受けることにワクワクするんだと。

そうやって夢中で働いているうちに、気づけば日本が大好きになっていましたね。

ー03ー
為せば成る、為さねば成らぬ何事も

ーーニコライ バーグマンの作品では、デンマークと日本という2つの文化をうまく取り入れていますよね。ニコライさん自身、日本で活動するデンマーク人としてどんなことを意識していますか?

新しく何かを始めることに対して、「成長するかどうか」と深く考えすぎず、「とりあえずやってみよう」という前向きさや実行する早さを大切にしています。これがデンマーク人の良さだと私は思うんですよね。

たとえば、ニコライ バーグマンの代表作となった「フラワーボックス」を生み出した時のこと。この商品は黒い箱に直接花を敷きつめるようにアレンジして作品にしたものなのですが、当初は「黒い箱はお葬式のイメージだから日本には合わないよ」と批判もされました。でも、黒は色鮮やかな花とのコントラストのために必要だと判断し、一度やってみたのですが、するとスッキリしていてシンプルでいいと評判がよくて、とてもうれしかったです。

また、カフェで提供するサンドイッチもそう。最初は、「日本人には大きすぎる」と反対されていましたが、いざ出してみたら、ほとんどのお客様が完食しています(笑)。まずやってみて、失敗したら修正する。これがデンマーク流なのかなと。

もちろん、日本人の価値観と違うやり方をすると、最初はたしかにみんな戸惑いますね。でも、そうやってデンマークの良さを活かして、日本人が持っている常識や偏見を変えてみるとうまくいくこともある。そのバランスがちょうどいいんだと思いますね。

ー04ー
失われた〝職人のDNA

ーーニコライさんが日本に住まれて約20年になりますが、日本で働いてみてデンマークとの違いはなんだと思いますか?

日本には〝職人のDNA〟が残っていることだと思います。かつてはデンマークにも日本のような職人がたくさんいたのですが、今はもうほとんどいなくなってしまっています。

デンマークのフラワー業界でいえば、40年ほど前は生花を生産する会社が100社くらいはありました。それが1982年くらいから、スーパーマーケットで花が売られるようになり、花のクオリティよりも価格が重視され、工場で大量生産されるようになりました。結果、生産者の生活が苦しくなり、今では生産者の会社は10社あるかどうかまで少なくなってしまいました。

しかもそれはデンマークに限らず、世界中で起きていること。かつて花の生産規模が世界一だったオランダも、価格競争の波にさらされると生産者の生活は立ち行かなくなり、いまや世界一はアフリカです。そしてアフリカが過度に商業化されると、きっと次はインドのほうへ。この繰り返し。

ーー問題は根深いですね。それに比べて日本には小さな生産者が残っているのはなぜだと思いますか?

「日本の職人文化が根強い」からと、「市場規模がそこまで大きくない」からという2つの理由があると思います。

日本では小規模の生産者でも丁寧にこだわりを持って花をつくっている職人気質な人が全国に大勢いるんですよね。実際にこれまで私は、花に限らず全国の様々な職人さんの制作現場に足を運びました。

たとえば、漆塗りの職人さんは、木地に色を塗っては研磨し、また塗っては研磨し、という作業を何回も繰り返します。それを1週間〜10日間もの期間をかけて。たった1つの作品にこんなにも手間暇かける工房はヨーロッパにはもうほとんどありません。日本人は、職人技から生まれた物を心からリスペクトし、愛しているんだと実感しましたね。

ーー普段何気なく生活していて、こんなに貴重な職人文化に気づいていませんでした。そして、マーケットも大きくなりすぎていないと。

少し前までは、日本のフラワー業界は花の需要が少なく、母の日や贈り物として特別な時にだけ買うことがメインでした。それが徐々に普段の生活の中でも花を飾ったり、自分のために花を買う人が増えてきているんです。

花が身近な存在になりつつも、まだまだデンマークような巨大なマーケットになっていないため、多くの生産者が魅力ある花をつくっています。ここ数年はすごくバランスの良いマーケットになってきていると思います。これは本当にすばらしく、ありがたいことですよね。

でも裏を返すと、「ライフスタイルに花を取り入れましょう」と過度に消費を煽るような宣伝はとても危険です。最近少し流行り始めていますよね。世界を見ればわかるとおり、この風潮が浸透するとマーケットがガラッと変わってしまう。私は文化として花を生活に取り入れている、この状態が続くのが一番いいんじゃないかと思っています。

ー05ー
日本の職人が生み出す唯一無二の花

ーー日本の「文化としての花」というお話がありましたが、それはどういうことなんですか?

もちろん日本にもデンマークにも、花が文化として価値あることには変わりありません。ただ、花の楽しみ方が違って、日本の方が花の文化的な価値が高いと思います。

ヨーロッパの人々が花を見かけたら、「あっ、花ね(ただの花でしょ?)」くらいの印象なんです。それに対して日本だと、「あぁ、花だ!(なんと美しい!)」という、もっと芸術的な捉え方をします。

日本人は本当に花が好きで、〝アート文化〟〝職人技術〟を大切にする心が残っている。日本人にとってはそれが当たり前だから気づかないかもしれませんが、花がこんなに美しいものとして扱われることは、世界的に見ると珍しくて、素晴らしいことです。

ーーニコライさんの日本の花に対する愛がものすごく伝わってきました!

だから、私は日本の職人的な生産者がつくる花が一番好きです!もう本当に最高ですよ!

けっして高い給料でなくとも、ただただ花が好きで、山奥に住みながら花を栽培している生産者。「花をつくって生活できるのが幸せ!」と心底感じながら仕事に打ち込む生産者。そんな彼ら彼女らがつくる花はとても繊細で表情豊かで美しくて、唯一無二の存在です。

たとえば、アフリカでは「赤い花1万本、黄色い花1万本」といったように、工場で大量生産します。そのような花には、赤と黄色の間の微妙な色合いを持つ美しさはないんです。

日本の生産者なら赤とも黄色とも言えない絶妙な色の花をつくることができる。しかも、同じ花の種類でも日本各地の土地や気候、そして生産者のキャラクターによってまったく異なるニュアンスの花になる。微妙な色合いや花びらの艶が多様で、どれも本当に魅力的です。

私はフラワーアーティストとして、これからも花のある暮らしを人々に届けていきたいと思っています。そしてそれは日本の職人気質な生産者がいるからできること。だからこそ、そんな〝職人のDNA〟を次世代に受け継いでいくことが私の願いであり、そのために今日も作品をつくり続けているのです。