デンマークで最もオーガニックな市長が語る、都市より地方に住む方がイケてる理由


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「オーガニックな地方として突き抜ける」目を輝かせながら彼女はそう力説する。首都コペンハーゲンから車で1時間ほど、見渡す限り緑が広がるライア市。多忙なスケジュールの中、取材に快く応じてくれた女性市長は「英語を話すなんて何年振りだろう(笑)」と戸惑いながらも、「今回の総選挙への出馬は断ったの」と強い口調で語り始めた。

 

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Mette Touborg|メッテ・テュボー

ライア(Lejre)市長
社会主義人民党(SF)所属

2009年より現市長。2度の再選を経て、現在3期目。社会主義人民党では副党首を務めたこともある、自他共に認める有力議員。20年以上国会議員だった父を持つ、いわゆる二世議員でもある。本党は、社会民主主義と環境保護を掲げ、国会では約9%の議席を持つ。

国内計98市あるうち、女性市長はわずか12市のみ。シェラン地域北部のライア市は、そのうちの一つ。

市のホームページはこちら

▶︎ インタビュー&文&一部写真:別府大河
▶︎ 写真提供:Lejre Kommune

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Map from Wikipedia

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私は国会議員より市長でありたい

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Photo from Lejre Kommune

――デンマークでは2週間後(当時、6月18日)に総選挙を控えていますが、メッテさんは出馬されていませんよね?

自分で言うのもなんですが、私は党内で唯一の市長だということもあって、出馬すれば当選がほぼ確実。なので、政党からは「頼むから出てくれ」と、何度もお願いされて。でも今回は「ごめんなさい」と。私にはLejre(ライア)市でやることがまだたくさんあるので。

――市政に対する思いが強いんですね。ここはどんな地域なんですか?

ライア市は、49の小さな町と村からなる、人口2万7千人の小さな地方です。一番大きな町でも人口はたった4千人弱。デンマークというとても小さな国の、さらにその中の小さな場所。

56万人もいる首都コペンハーゲンと同じように国を動かすほどの力はありませんが、ライアはライアの強みがあります。それは、首都まで自動車で1時間以内という近さにあって、かつ自然豊かだということ。特に水資源が豊富で、コペンハーゲンで供給される水全量の15%は、ライア市が供給しています。採れたての新鮮な食品だって、鮮度を落とすことなく即座に届けられますし。

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――市民はどういう人が多いんですか?

市の労働者の約80%は首都に勤務しています。「職場は都心部だけど、緑に囲まれた静かな家で、10分歩けば湖があって、馬を飼かいたい、そんな場所で子供を育てたい!」という人ばかり。なので、みんな教育水準がとても高くて、自分なりの豊かさのモノサシを持っている人ばかりなんですよ。

残りの人たちの多くは地方公務員、つまり私たち自治体のメンバーですね。市内最大の民間企業の従業員220人に対して、行政、学校、幼稚園、老人ホームなど、自治体メンバーはなんとその10倍の2200人。市内で最も多くの雇用を生み出しているのが私たち自治体なんですよ。あと農家とか……起業家もけっこういますね。

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起業家の多いライア市
地方で起業するわけとは?

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Photo from VisitLejre

――「仕事は都心だけど家は田舎」という人が多いのはいかにもデンマークらしいですが、起業家が多いのにはビックリしました。

シェラン地方にはライア市を含めて17の市があるんですが、その中で最も起業家が生まれているのがライアなんです。何をやっているかというと……みんな本当にバラバラで(笑)。デンマーク国内で初めてのドローンを開発し始めた起業家とか、特殊な技術を持ったボーリング会社とか、国内で有数のクラフトビール会社も2つありますね。

――なぜわざわざライア市で起業する人が多いんでしょうか?

もちろん理由は一つじゃありませんが、都市で起業するより、ここで起業した方がコスト的に安いからです。デンマークには国税と地方税の二つがあるんですが、ライア市では、個人事業主でも法人でも地方税は一切取らないので。

これは戦略というより、「どうやったら都市と差別化できるか?」「より魅力的な地方になれるか?」と現実的な判断をした結果でした。なので、そういう会社や組織とコミュニケーションを取る、専属の自治体メンバーが常駐しているんですよ。私だって、週に一度は直接会って、不満を聞いたり、要望を聞く時間を取っていて。これは小さな地方だからこその強みですよね。

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ただ無農薬だけじゃない、
地方のオーガニック革命の可能性

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Photo from VisitLejre

――でも、コペンハーゲン周辺の地方には、自然豊かで起業家を誘致する自治体はライア市だけではないですよね。その中で、どうしてライアを選ばれるんですか?

その理由は、私たちが3年前から力を入れている、オーガニック政策の成果が大きいと思います。はじまりは、「オーガニック」というキーワードが、スローな生活に関心がある市民にピッタリだと思ったこと。そして今では、ライア市は最先端のオーガニックな地方として、国内ではよく知られています。

「オーガニック」というと「有機農業」を連想するかもしれませんが、私たちはもっと大きな文脈で捉えています。ただ環境にいいだけじゃない。「オーガニック」は様々な問題の解決の糸口になり得ると、そう信じています。

――オーガニックが問題解決になるとはどういうことですか?

たとえば、3年前からある教会で始まった「オーガニック・チャーチ・フェスティバル」。今年で4回目となるこの集会は、冬のある夜に、農家や庭師などオーガニックに関心のある人たちが、自分たちの抱える問題や、お互いの知恵や経験を共有しながら親交を深めています。

これで終わりじゃありません。春先になったら、今度は実際に足を運んで、お互いの畑や庭を訪問する。そこで実際に見て、触れることで、また新しいアイディアが生まれて、「じゃあ一緒にこれをこうしよう」となったり。この場全体が一つのコミュニティとして機能しているんですよ。

自治体が抱えていた問題の解決策になった例も。道路の間とか脇に芝生の区域があるじゃないですか。あそこは公共のインフラなので、自治体の管理下にあって、維持費や管理費が高くつくんですよ。そこに目をつけたある農業団体が「あの場所でオーガニック野菜を栽培したいから譲ってくれないか?」と。農家は土地を得られるし、私たちはコスト削減になる、Win-Winな関係に。

――「オーガニック」をきっかけとして、いろんな付加価値を創出できるんですね。

ですが、デンマークはオーガニック志向の人がほとんど。どこの地方自治体もだいたい「オーガニック」や「グリーン」を掲げるんですよ。だから、このブランドがつくのは簡単なことではありませんでした。でも、私たちのように「問題解決ができるんだ!」とまで宣言して、それを実行し、成果をあげていれば、人はちゃんと後から付いて来るもので。地方は都市にはない、魅力的な何かで突き抜けることが大切なんですよ。

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内と外。双方向に社会を変える

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Photo from Lejre Kommune

――「オーガニック」というキーワードを媒介として、コミュニティができたように、デンマークではコミュニティがとても重要視されていますよね。

そうですね。こうやってある程度似通った価値観を持つ人が集まって、狭い範囲で生活していると、もうみんな知り合い状態なんですよ。近所の人が困っていたら「私に何かできることがある?」とすぐに声をかけるし、バスに乗って知らない人がいたら「どこから来たの? 困ったことがあったら言ってね」と。そうすると、市民はもっと安心して、より豊かな暮らしができるんです。

オーガニックに力をいれ始めて数年して、不思議なことが起こりました。コミュニティができただけじゃなくて、「ライア市はオーガニックに力を入れている」という事実が、市民のアイデンティティになって、市民の結束力が強まったんです。

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Photo from VisitLejre

――外へのブランディングだけじゃなくて、内でのアイデンティティにもなったんですね。

はい。月に一度、ある農家の家に集まって、ご飯を一緒に作って食べる会があって。市民なら誰でも参加できてすごくオープン。市長である私だって、市の一員として参加しているんですが、これが最高に楽しくって!

もちろん都市でもできることですが、地方の方がお互いを助け合う、共生する社会を作りやすい。いくら政府や自治体がこうしようとしたって、社会を構成する人々の価値観を共有できていなければ、ライアのような社会は作れないと思いますね。

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国に対する地方の役割
「枠が狭ければ広げればいい」

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Photo from VisitLejre

――お話を聞いていると、メッテさんも信頼できるし、なんか僕もここに住みたくなってきました!(笑)

ありがたいことに、市民はすごく私を信頼してくれているんですよ。つい最近、「政治家についてどう思っているか?」というEUによる国勢調査があって。その結果、デンマークでは、国会議員よりも地方議員の方が好意的だとわかったんです。私の感覚的にも、共感できる結果ですね。

――デンマークは僕が思っていた以上に地方の権限が強いように感じました。

少なくとも中央と対等な立場にはありますね。たしかに私たち地方は、中央政府が作った枠から逸脱することはできません。でも、その枠が大きければ問題ないし、狭めようとするならそれに抵抗すればいい。地方の人はみんなそう思っています。

たとえば、なぜ無農薬野菜を作って販売するのが難しいのか調査したところ、それは政府による規制や法律が障壁となっているからだとわかったんです。そこで、私は政治家と直接話したりして、いかに規制を緩和させるか、オーガニック食材が流通しやすくするにはどんな法律が必要なのか調べて、実際にいくつかの法律を改正することができました。

どんな地方にも、都市にはない可能性があると思います。私たちはたまたま「オーガニック」に着目しただけ。そして、中央にすべての引導を渡さないように努めることもまた、地方の存在意義だと私は思います。

ライアって、すごく魅力的でしょう? ほら、これで私たちのところへ移住する決心は固まった?(笑)