【第5回】ロラン島のリーダーに聞く、「大きな循環の中で、日本人はどうしたらやさしくなれるんですか?」


誰だって、やさしくなりたい。
自分に、他人に、地球にも。

では、その「やさしさ」って何なんだろう?

やさしさとは、想像力と行動力だと、ぼくは思っている。

そんなことをふと思ったのは、デンマークの「ミスター・エネルギー」と呼ばれている、レオ・クリステンセンさんに出会った時だった。

造船業という主幹産業が衰退したロラン島を、強いリーダーシップのもと、島の経済を立て直すどころか、世界で突き抜けるエネルギーの先進地域へと作り変えたのが彼である。

今回は、都市と農村という大きな循環の捉え方から、日本の堤防と林業の具体的な方策まで、レオさんから日本への提言を届ける。

Leo Christensen

「東京のような大都市、コペンハーゲンのような都市は、いつだって農村地域によって支えられていることを忘れてはいけません」

ロラン島を自然エネルギーの「奇跡の島」へと導いた、レオ・クリステンセンさんの言葉はずっしりと重たい。

東京をはじめとする都市部に住んでいると、その便利さゆえに、そんな当たり前のことをふと忘れたり、感じられなくなってしまうことがある。

スーパーやコンビニに並べられた野菜は、どこの誰の畑で生産され、どうやってここまでやってきたのか。
毎日使っている電気は、どんな会社によって、どのように作られ、運ばれているのか。
石油や天然ガスによる発電なのか、それとも再生可能エネルギーなのか。

都市部での思考停止は、日本よりはるかに小さな田舎の国、デンマークでも同じだという。

前回はニールセン北村さんに、島内で自然をフル活用しつつ、すべてを循環させることの大切さ、そしてそこにある可能性を伺った。
レオさんはその概念をさらに拡張させて、より大きな「循環」の大切さを説明してくれた。

「農村部で作られた食料や飲料水は都市部へと調達されます。
エネルギーも同じですね。
そして、労働力も都市へと流れ込みます。

反対に、人と物が集中する都市では、知識や知恵が蓄積され、さらに、産業が作られてお金が生み出され、農村部はその恩恵を受けます。

しかし、忘れてはならないのが、都市はゴミも排出するということ。
そして、そのゴミの受け皿は、人の少ない農村部になることが多いわけですね」

ぼくたちは、いつだってこの大きな循環の中の一部を担い、一人ひとりの生産や消費によって、循環を作り出している。
レオさんは、それを考えられる「想像力」の大切さを強調する。

「気候センター」と呼ばれる施設で、前回の記事で取材したニールセン北村さんの通訳のもと、インタビューは始まった

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では、ぼくたちはその「想像力」を働かせて、どのような「行動力」を発揮すればいいのだろうか?

レオさんは、島内で数々の実績を上げているオンセヴィ気候パークを例に取って、日本はたとえば、堤防についてやれることはたくさんあると指摘する。

日本は長年の研究から、堤防についてたくさんの知見や最先端の技術を持っている。
しかし、「海からの大波や津波を押させて、中から出て行く水を堰き止め、また排水する」という日本における「堤防」の概念はずっと変わっていない。

レオさんは鋭くそう指摘すると、目の色を変えて語り始めた。

「ロランみたいな予算の少ない自治体では、日本のような堤防を作ることはできません。
なので、それを逆手にとって、陸地の水は自分たちがコントロールできる範囲にとどめて、それを産業に変えています」

たとえば、ロラン島クラムツェ地区にある、バルト海へと流れ込む川の下流に位置する北欧最大のポンプステーション。

今あるものをどうフルに活用するか?
その問いを前に見つけた可能性が、藻の活用だった。

「もともとこの川には堤防があり、たくさんの水路が流れ込できています。
そのせいで多くの養分を含んでしまい、結果、バルト海を汚染していました。

そこで、川にポンプステーションを設置して、川の水量をコントロールし、そこで藻を培養し始めたんです。
すると、藻が養分を吸収することで、水質が劇的に改善。

そして、ついにバルト海の水質改善への可能性を見い出すことができました」

レオさんの取り組みは、いつでも一貫している。
最新の研究やテクノロジー、そして革新的なビジネスモデルと掛け合わせて、今ある資源を最大限に活用する。

抽象的な課題への取り組み方への提言に終わらず、その具体的なやり方まで惜しみなく、わかりやすく教えてくれる。
そんなレオさんの話はここでは終わらない。

「さらに、その藻からは、有効なオイルやプレスケーキを取り出るんです。
オイルはバイオディーゼルや特定の脂肪酸になり、プレスケーキは生理活性成分や飼料になるので、また陸地に還元されるんですね。

ここまでの過程を経て残ったものは、リンなど土壌を良質に保つために必要な成分を含んでいますから、最後に畑に戻します」

もうちょっと話を続けますね、とレオさんはちょっとだけ険しい顔をしながら、日本の林業について語り始めた。

「日本は林業の収益が上がらず、危機的な状況があります。
その理由として、日本には山が多いため、高齢化で標高の高い場所での木材の伐採が難しいからだとよく言われます。

でも、果たして本当にそうなのでしょうか?」

国土の7割以上が山岳地帯の日本。雨もよく降る。
でも、日本と同じように山が多い、カナダやドイツ、スウェーデン、ノルウェーだって、林業で利益をちゃんと生み出せている。

日本に山があることをデメリットとも言えるのかもしれないが、それをメリットと捉えて、有効利用する道もあるのだという。
日本の林業の仕組みに問題があるのではないか、というのがレオさんの指摘だった。

「まずは、水を何カ所かで溜められるようにします。
大きなダムじゃなくて、貯水池くらいのもの。

まず、そこから水を降ろす時、落差を利用して水力発電ができます。
また、日本なら棚田に水を供給することもできますよね。

下流域の山麓の方では、農業と同時に藻の培養もできる。
さきほど話したポンプステーションの例がまさにこれです」

海から水が蒸発し、雲となる。
その後、雨として地上に降り、川となり、山から海へと再び還えっていく。

この大きな循環の中に、いくつかプロセスを人間が作ることによって、自然が自らの力でさらに浄化することができるのではないか、というのがレオさんの指摘だ。

「たとえば、フィンランドも30年前は林業が衰退していました。

そこで、大学なども協力しながら国をあげて、木材を使った家造りを研究し、「フィランド・ハウス」という、国産の木材を使った家を普及させました。
すると、木材の利用が増え、林業が活性化したんです。

今は、ドイツでも同じような動きが起き始めていますね」

どちらにも共通しているのが、今ある資源とテクノロジーを最大限に活用し、長持ちする家を建て、それを普及させること。
そして、それを政府が先導し、産(産業)・官(政府)・学(大学や研究機関)が三位一体になって取り組むことが大切だという。

レオさん自身が先生となって、小学生に地球環境についての授業をしていた

デンマークの「ミスター・エネルギー」、レオ・クリステンセンさん。
彼の話をもとに、堤防や林業といった具体例を挙げたが、本質的に大切なのは個々の事例そのものではなく、「問題を認識し、解決方法を想像し、実際に行動に移す」ことではないだろうか。

彼はそれをロラン島で実践しただけなく、世界中の例を参考にしながら、はるか東で混迷する日本のことまで考えてくれている。

世界はもっとやさしく、ピースになれる。

レオさんやロラン島を知ると、ぼくは自然とそう思えてならない。