2014年世界一に輝いたレストランで働く唯一の日本人シェフ「僕より優秀な人はたくさんいるけど…」


Junichi Takahashi

2014年、世界一に輝いたレストラン「noma」。今年1月には東京に出店し、日本で大きな話題を呼んだ。そこで働く唯一の日本人シェフがいる。初めて食事したその場でオーナーに直訴し、シェフの座を勝ち取った彼は、日本とどのような違いを感じ、世界一の職場で何を思うのか?

 

Junichi Takahashi高橋惇一|Junichi Takahashi

noma シェフ

1983年生まれ。服部栄養専門学校卒業後、ヌキテパなど都内のフレンチレストラン3軒で修行。2011年より、コペンハーゲンに渡ってnomaにて勤務。

nomaは、料理界のアカデミー賞とも称される「レストラン・マガジン」主催の「世界のベストレストラン50」で2014年に1位に輝いた、デンマークのレストラン(2010年から計4度首位を獲得、2015年は3位)。

今年2015年1月のマンダリンオリエンタル東京で「noma japan」を出店。

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二兎を追うものは三兎を得る

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――nomaは、今年1月から3月まで東京の高級ホテルでレストランを開いたんですよね。nomaとしても異例の海外出店、久々の日本はどうでしたか?

正直忙しすぎて、ホテルの外に出る余裕がなかったんですけど、とても楽しかったですね。でも、お客さんは半分以上が外国人だったので、日本にいるようで日本にいないような、不思議な感覚でした。

――改めて日本に帰ってみて、海外で、しかも世界トップクラスのレストランで働いて、何を感じますか?

「もっと楽しく働いていいんだ!」っていうことですね。たとえば、シェフの国籍を一つとっても、nomaはデンマークのレストランとはいえ、デンマーク人のオーナーシェフ・レネをはじめ、イギリス人、ベネズエラ人、フランス人、オランダ人…とかなり国際的。人数は正規のシェフが約20人、研修生30人くらいで、まだ10代後半の研修生もいたりと、年齢も実力もバラバラ。

それでも、相手が誰であろうと、人と会ったらまず握手して、「What’s up?(どう?元気?)」って気さくに話しかける。そういうことをみんなができるんです。なので職場はいつも本当にいい雰囲気で。仕込み中は厨房で音楽をかけながら調理するのは日常茶飯事だし、掃除の時なんかは、大音量にしてみんなダンスしながら床を掃いたり(笑)。

それに比べて、日本では仕事を楽しいと思ってはならない空気がなんとなくありますよね。きっと他の多くの職場にも言えることだと思います。でもデンマークに来てわかったんです。働くのを「楽しむ」ことと「真面目に」取り組むことは矛盾しない。どちらも両立できるし、むしろ相乗効果でもっと高い成果を生むんじゃないかって思うんです。

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世界一のレストランまでの軌跡

「食べたい」から「働きたい」へ

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――高橋さんの経歴について伺わせてください。そもそもどうしてシェフになったんですか?

みんなが大学受験勉強を始めた頃、僕はどういうわけか「大学は違うな、でもまだ働くのも…」と思っちゃって。これといった理由はないんですが、単純に昔から料理が好きだったので、料理の専門学校へ進学。卒業後は、10年間で都内のフレンチレストラン3軒で働いて、ここnomaへ。

――海外とは無縁の生活から、なぜいきなりデンマークのレストランまで?

本でたまたまこのレストランを知ったのが直接的なきっかけです。フレンチで働いてたこともあって、フランスには何度か行ったことがあったし、もともと海外には興味があったんですよ。

それまでもよく料理本は読んでいて、いろんなレストランを見聞きしたことはあったんですが、nomaのことだけは頭から離れなくなっちゃって。写真だけじゃ料理の味がどうしても想像がつかなかったんですよ。もう気になって気になって仕方がなくって! 「これはもう食べに行くしかない」とデンマークまで食べに行きました。

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――nomaだけのために、はるばるデンマークまで来たわけですね。

初めてnomaに来た時のあの感動は一生忘れません。それまで味わったことない料理と、心から楽しそうに働くスタッフ。味も雰囲気も、すべてが新鮮で、「もっと知りたい!」とまた抑えられなくなっちゃって。で、英語も話せないのに、その場で厨房に行ってオーナーシェフに直訴しに行ったんですよ。

そしたら、「無給でいいなら半年間だけ研修に来ていいよ」って言ってくれたんです。実際に働いてみると、料理自体はそんなに難しくなかったんですが、コミュニケーションがものすごく大変で。あえて悪い英語を使ってみたり、バカなことをしたり、仕事終わりに飲みに誘ったり、溶け込もうととにかく必死でしたね。

そんな努力が実ったのか、「ジュン、これから社員として働かないか?」って。研修最後日にそう誘ってくれたんですよ。あの時は本当に嬉しかったし、あれから3年経った今でも仕事が100%楽しいと言えるのは幸せです。

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チームなのにチームじゃない?
海外の方が日本らしいという矛盾

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――まさかそんな経緯だったとは思いませんでした! 実際に働いてみてどうですか? 日本との違いはありますか?

一つ挙げるとしたら、「チーム」の考え方が違いますね。日本だと、みんなで一つのチームなのにそれぞれ個人種目を戦っているような、仲間なのに仲間じゃない、そんな錯覚がありました。

たとえ他の仕事ができても上司の仕事は取れない。どんなにいいアイディアがあっても上司には言えない。逆に、仕事ができないと思われたら、見放されたり切り捨てられることもあるので、「いい料理を作る」より、「上司から認められる」ことに必死で。

でも、nomaでは、年齢も職歴も立場も関係なく、やれるならどんどんやっていいし、何でも意見できる。

料理が上手な人もいれば下手な人もいる。仕事が早い人がいれば遅い人もいる。一つのチームとして何かを作り上げるなら、下手な人に対して怒ったり説教するんじゃなくて、教えてあげたり助けてあげればいいですよね。「足りない部分はみんなで補い合おう」という気持ちをみんなが共有しているんです。

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肩書きではなくひとりの人として

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――高橋さん自身、一番学んでいることはどんなことですか?

料理を学びにデンマークに来ましたが、日々一番学んでいるのは人間力とか生き方ですね。nomaのオーナーシェフ・レネもそうですが、初対面なら自分から挨拶して、握手して、名前を聞く。時間があれば、ちょっと立ち話をする。不必要に着飾る必要も、高飛車になることもない。

レネの料理はもちろんですが、彼の人との接し方にも尊敬していますし、多くの影響を受けています。 結局は、そういう人の回りにいいシェフが集まってきて、おいしい料理、いい雰囲気のレストランができあがって、多くのお客さんが足を運んでくれるんだと思います。

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どの山をどうやって登りたいのか

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――最後にあえてお聞きしたいのですが、日本のシェフ、もしくは日本人に海外で働くことを勧めますか?

海外で働きたい気持ちが少しでもある人には勧めますが……結局は、自分の目標がどこに向かっているかだと思います。もしあえて困難な道を選んで海外に出るなら、知らなかった世界に触れたり、視野や視座を広げたりする、いいチャンスだと思います。自分の強みを知って、さらに高い目標を見つけることだってできます。

――海外に出たい気持ちはあっても、「そう言われても…」と踏みとどまってしまう人は多いと思います。

海外で仕事をすることはもちろん運もありますけど、強い信念を持っていればそんなに難しいことじゃありません。僕より才能のあるシェフは日本に山ほどいますし、僕だって最初は英語もまったく話せませんでしたから。そう考えると、最後は技術うんぬんの話じゃなくて、勇気なんだと思います。必要なのはちょっとした勇気だけなんです。