デンマーク政府のロゴを手がけたデザイナーに聞く「日本をブランディングするならどうしますか?」


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2020年東京オリンピックのロゴを巡る問題は記憶に新しい。そんな今だからこそ考えたい。「日本らしいデザイン」とは何なのか? デンマーク政府や世界的ビール会社「カールスバーグ」などのデザインなどを手がける傍ら、日本企業のブランディングも行う、北欧屈指のデザイン会社「コントラプンクト」。今回は、その代表にインタビューを行い、日本の可能性について、日本とデンマークのデザインの観点から迫った。

 

bolinnemannBo Linnemann|ボー・リンネマン

Kontrapunkt デザインディレクター / 代表取締役社長

1985年に同社を共同設立。王立芸術アカデミーで教鞭をとる。デンマークデザインアワード17回受賞。

デンマーク各省庁や「カールスバーグ」のビジュアルアイデンティティのデザイン、世界一のレストラン「noma」のデザインも手がける。

武蔵野芸術大学客員教授を務めた経験があり、日本との関わりも深い。日本を代表する印刷会社「DNP」や高級ジュエリーブランド「TASAKI」、日本発祥の有名ベーカリー「アンデルセン」のブランドをデザインし、現在は伊勢丹とのコラボレーションも行っている。

▶︎ インタビュー&文&一部写真:別府大河
▶︎ 写真提供:Kontrapunkt

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私たちはただの外国人じゃない!

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——コントラプンクトは、北欧の中でもとても有名なデザイン会社ですよね。どうやって日本で仕事をされるようになったんですか?

はじまりは、15年以上も前。日本で行われた会議でスピーチをした後、大阪での「dddギャラリー」と、東京・銀座での「gggギャラリー」に招待されて。その懇親会で日本デザインセンター代表取締役、原研哉さんと親しくなったのが一番のきっかけです。

彼は私を武蔵野美術大学に講師として迎え入れてくれました。それが日本との接点となって、徐々に仕事もいただけるように。今では、私たちが日本で何ができるか、何を求められているかだいぶよくわかるようになってきました。

——どんなことが求められていると感じますか?

まず一つは、海外との関わりが少ない日本のデザイン界で、グローバルなブランディングのお手伝いをすることですね。でも、私たちは他のヨーロッパのデザイナーとは違います。私たちは、「デンマーク」のデザイナーです。

デンマーク人と日本人の考え方って、ものすごく似ているんですよ。ヨーロッパの人は上からモノを言ってくるイメージがあるかもしれませんが、デンマーク人はかなり違っていて、性格は穏やかで、むしろ人の上に立つことを嫌がるくらいなんです。

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——子供の頃から「自分を特別だと思うな」と教育されているくらいですからね。

そうそう(笑)。それなのに、ヨーロッパから日本に来たデザイナーには、「俺の言うことを聞け!」っていう態度の人が多いんですよね。日本文化をまったく理解できていないと思いますね。

そういう意味で、コントラプンクトは、相手はどんなアイデンティティを持っているのか、何を実現したいのか、何を求めているのか、まず「聞く」ことを大切にしているので。デザインを考え始めるのはそれからです。日本ではきっとそういうところを評価してもらえているんだと思います。

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デンマークのデザインの原点
それは日本の建築文化にあった

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——日本とデンマークは国民性だけじゃなく、デザインでも共通点が多いですよね?

そうですね。デザインにおける一番の共通点は、シンプルさに価値を見出すこと。たとえば、コントラプンクトがデザインする時は、無駄なものをできる限り削ぎ通して、最後に残った本質的なものだけを抽出します。ただ、デザインがシンプルすぎるのはダメ。貧相でつまらなくなってしまう。

シンプルすぎず、でもちゃんと的を得ている、その絶妙なバランスを表現するのが私たちのデザインの特長。コントラプンクトでは、これを「enriching simplicity(豊かなシンプルさ)」と呼んでいます。

これって、とても日本的な価値観ですよね。それどころか、もともとは日本の建築の世界観だと思います。日本の伝統的な建築は、ある地理的な区域の中で、丸や四角といった、シンプルな形の積み重ねによって成り立っています。その考え方は、デンマークのデザインの根本的なアプローチの仕方と全く同じですよ。今、日本で話題の「デニッシュ・デザイン」のルーツは、実は日本にあったんです。

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日本文化と物質至上主義の間で

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——世界的に有名なデンマーク人のデザイナーの方に、しかも日本でも仕事をされている方に、そう言われるとものすごく説得力があります。

でもね、それが日本全体の話になるとまったく違うんですよ(笑)。いつも日本に来て思うんですが、日本はテレビを見ても、店に入ってみても、なんだかいつも慌ただしくて、モノで溢れている。私には、ここに大きな矛盾があるように思えて。

日本にはシンプルさを大切にする文化や価値観があるのに対して、社会は巨大で、ものすごく複雑。心では「少ないことが素晴らしい」と思っているはずなのに、真後ろからは「もっと!もっと!」という叫び声が聞こえてくる。この二律背反の現状が日本を疲弊させている気がするんですよ。

——日本の圧倒的な広告の多さがそれを物語っていますね。

もちろんデンマークだって両方の価値観が共存しています。けれど、デンマーク人はもっとシンプルな生き方を大切にしていると思います。その方が良いというわけではなく、ただ「その方が明確でわかりやすいよね」と。

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国のブランディングの極意
アイデンティティをデザインする

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——日本では最近、東京オリンピック、安保法案など問題が山積みで、国としての方向性がまったく定まっていません。コントラプンクトはデンマーク政府の、国全体のブランディングを手がけましたが、何を意識してデザインしましたか?

デンマーク政府のロゴをデザインしたんですが、そこで意識したのは、政府と国民の距離感を縮めるように設計したこと。他の国のロゴと比べると違いがよくわかると思います。政府はふつう、あえて敷居を上げるブランディングをすることで、厳格で、権威高いことを国民に誇示しようとするものです。ですが、人口約560万人というこの小さな福祉国家では、効果がありません。

デンマークの人々は、高所得者と低所得者、支配者と被支配者などといった格差がとても小さく、互いに寄り添い合って生きています。同じように、政府だって国民に対してオープンで、フラットであることが要求される。それをそのまま表現したのが、私たちのデザインなんです。

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——欧州最古の王室、デンマークの象徴とも言える王冠をモチーフにしたんですよね。デンマークであのロゴを見ない日はありません。

その時、気づきましたか? 王冠にもたくさんの種類があったことに。私たちはあえて各省庁に別々の個性を与えました。それによって、権力を分散させ、より人々にとって身近で、カジュアルな存在になるようにデザインしました。これがまさに、「デンマークらしさ」であり、「デンマークらしい」アプローチだと思います。

とはいえ、王室のシンボルを民主主義の政治のロゴとして使うのはヘンな気がしますよね。けれど、あれからずっと私たちのデザインが使われ続けているという事実は、デンマークの国民性にあっていたことを証明していると思います。遊び心のあるデザインにリラックスしつつも、ちゃんと人々の心にも刻まれているんです。私たちは、ノルウェー人でも、スウェーデン人でもなく、デンマーク人なのだと。

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「日本らしさ」とは?
答えは日本人のルーツにある

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——国をブランディングすることはとても大切なんですね。これ以上右肩上がりの成長が見込めない僕ら日本人も真剣に考えなければなりません。

多くの国が見落としていますが、国のブランディングはとても大きなチャンスだと思います。国に「顔」があるとないとではまったく違う。国民にとっては、一目でわかる目印になったり、共通のアイデンティティになるかもしれない。外国から来た人に対しても、国の魅力やユニークさをアピールできるかもしれませんし。

これは企業レベルでも言えること。たとえば、日本企業は「ブランディング=ロゴと色」だと思っていて、タイポグラフィー(フォント、文字の形状)にはこだわりがあまりありません。ちょうど今日(9月2日)、Googleがロゴを変更しましたが、あれには大きな意味があるんです。

人が文章を読む時、私たちは文字を読んでいるようで、実は無意識のうちに文字のタイポグラフィーを読んでいます。たとえば、「カールスバーグ」のロゴ。あの文字を何度か見た後に、「ビール」「のどごし」「乾杯!」と同じタイポグラフィーで書かれた言葉を見たら、社名がなくても「これはカールスバーグだ」と直感的に連想するもの。タイポグラフィーが会社の「顔」になることもあるんです。

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——企業も国も「顔」が重要で、またその「顔」のあり方も多様なんですね。

でも、何の哲学もない、お化粧みたいなデザインに価値はありません。デザインは、ただどう見えるかではなく、人が何を考えて、何を言って、どう動いて、どう関わり合うかなどにまで影響を与えるもの。なので、企業をブランディングすることと同じように、国について考えることもとても大切なんです。

では、日本人は日本をどうデザインするか? それは、日本という国のルーツに関わるデザインであるべきだと思います。「日本社会や日本人の価値観の本質には何があるのか」を見つけ出し、それをデザインとして視覚化すればいいのです。どんなものになるかわかりません。ですが、それはデンマークと同じように、きっとシンプルなものになることでしょう(笑)。