「クリエイティビティは才能じゃない」 デンマーク発ビジネスデザインスクール・カオスパイロット卒業生、大本綾が語る創造的なチームとは?


クリエイティビティは才能ではなく、スキルである!デンマークのビジネスデザインスクール、カオスパイロットの日本人初留学生である大本綾さん。帰国後、「国籍や年代を超えて最高の学びをデザインすること」を理念にLaere(レア)を創業。そんな彼女が体感した、デンマークのデザインとクリエイティブ・リーダーシップのあり方とは?

 

大本綾|Aya Omoto

Laere共同代表 / クリエイティブプロセスデザイナー

高校、大学でカナダとアメリカに2年留学。大学卒業後、広告会社で大手消費材メーカー向けにブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。2012年、デンマークのビジネスデザインスクール、カオスパイロット(KAOSPILOT)に初の日本人留学生として受け入れられ、2015年6月に卒業。留学中は起業家精神とクリエイティブ・リーダーシップを中心に学び、デンマーク、イギリス、南アフリカ、日本において社会や組織開発のプロジェクトに携わる。

その後、カオスパイロットでの経験を活かし、教育デザインファームである株式会社Laereを設立。クリエイティブリーダー育成プログラムの開発・実施を行っている。

▶︎ インタビュー&文:小田楓
▶︎ 編集&現場写真:別府大河
▶︎ 写真提供:大本綾さん / Laere

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「学び方」を学ぶ。
デンマークで私が得たもの

——デンマークから帰国後に現在の会社を立ち上げられたんですよね。どのような思いを持って現在活動していらっしゃるんでしょうか。 

本質的な学びが生まれる場を継続してつくっていきたいと思っています。そのために、レアのコースには最初から正解を教えるような教科書はありません。参加者それぞれが自ら学びをつくり、自分に合った納得解の導き出し方を実践を通して学ぶことのできるコースをデザインしています。

たとえば新しいことを学ぶときって答えを求めてしまいがちじゃないですか。でもその前に、「そもそも何のために学びたいのか?」と問いかけたり、自分で目指すべき姿を自分のことばにして他者と共有できる場を持つすることが大切だと思うんです。そのあとに、実践、内省、理論を通して、自分の行動を支えてくれる羅針盤となるような教科書を自分でつくっていく。これがより深い学びをつくっていくのだと思います。

ですので、レアでは目の前の相手と向き合い、対話をして、話の内容やその人の態度、働く環境、性格、歴史・・といった全てのことを注意深く観察して、傾聴することを大切にしています。これが、私がデンマークで得た「学び方を学ぶ」場のあり方です。

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「クリエイティビティ」って才能?スキル?

——大本さんはもともとカオスパイロットに入学される前は何をなさっていたんですか?

大学卒業後、コピーライターに憧れて広告会社に入社しましたが、配属されたのは営業職。コピーライター職は才能が問われる職種だと感じて、何か賞を受賞しないとなかなかそういう職に就くのは難しいと感じました。結果的に営業職でも充実した4年間を過ごしましたが、「クリエイティビティが持って生まれた才能なのか、それともトレーニングによって得られるものなのか?」という問いが自分の中にありました。

そんなとき、たまたま足を運んだのが2010年の「世界を変えるデザイン展」。そこで展示されていたのは、最貧困層の人々が「生きる」ためのデザインでした。それまで私が携わっていたデザインは、ものを「売る」ことや、ブランドの「知名度を上げる」ことが目的のものばかりだったけど、「世界を変える」デザインやクリエイティビティがあるってことを初めて知って。

そこで紹介されていたのが、デザイン思考でした。デザイン思考というのは、デザイナーの思考を体系化したもので、実践的かつ創造的な問題解決で、これまでに無かったような成果を生み出すためのもの。

「これがあれば、誰でもクリエイティブになれるんじゃないか」

当時の私にとってはあまりにも衝撃的で、「これがヒントになるかもしれない!」と興味を持ち始めました。

——その経験が今につながっていったんですね。でもどうしてそこからデンマークに行くことにしたんですか?

デザイン思考を学びたいと思って、最初はイノベーションやデザイン思考の研究で有名なスタンフォード大学のd.schoolの留学やデザイン会社への転職を考えていたんですけど、なんか思っていたのと違って。そうこうしているとき、2011年3月11日、東日本大震災が。

震災の3ヶ月後、ボランティアで石巻へ。最初は少し軽い気持ちで行ったんですが、作業中に余震がきて、それが怖くて、怖くて。もう逃げ出したくなるくらいに。ただ一方で同じ状況にいるのに、黙々と作業を続けている人たちがいて。「なぜ自分はここにいるのか、という強い意思を持って、困難な状況でも立ち向かうことが大切」って、思ったんですよね。

その後、震災後に立ち上がった東北創生のアイデアを発信するTEDxTohokuで、デンマークにあるクリエイティブリーダーを育てるビジネスデザインスクール、カオスパイロットの卒業生に出会って。彼女は社会課題を解決するようなプロジェクトやビジネスをつくっている方で、私がやりたいことってまさにこういうことなんじゃないかと思ったんです。社会起業家としての彼女の熱量というか、ものすごいエネルギーを感じたんですよね。そのときの「こういう学校にいきたい!」っていう強い気持ちが抑えられず、カオスパイロットに入学することを決めました。

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デザインする、の先にあるもの

——大本さんのすべての経験がつながってカオスパイロットに至ったんですね。他のデザインスクールとカオスパイロットで教えている「デザイン」はどう違うんでしょうか?

カオスパイロットで教えているのは限りなく「人間中心なデザイン」で、ビジネスのためのデザインだけではなく、社会問題も解決するデザイン。「To be the best school for the world(世界のための最高の学校になる)」というのがカオスパイロットのミッションなんです。デザインがゴールではなく、ポジティブな社会変革を生み出すことがゴールで、デザインはその手段にすぎないことを大切にしています。

——「何のためのデザインなのか」がはっきりしているのは、カオスパイロット独自のものなんでしょうか?

これはカオスパイロットに限ったことじゃなくて、デンマークらしい考え方なんじゃないかと思います。たとえば、2016年8月に世界一の図書館に選ばれた、デンマーク第2都市、オーフスにある図書館。そこは、市民が考えた、「未来の図書館はどんなものがいいか?」をもとにつくられたんです。子どもや、学生や高齢者にもインタビューをしたり、未来の図書館を表すようなプロトタイプをつくるワークショップを彼らはデザインして、「使う人にとって何が本当に使いやすい図書館なのか?」という問いを設定し、それを突き詰めて、実際のユーザーに参加してもらいながらデザインされました。

「本がメディアではなく、人がメディアだ」。彼らはそう言うんですが、私にはこれがすごく印象的で、デンマークらしいなと思って。多様な人がその場で交わって、対話をすることで新しい知を創造していく。そんな場所にしようという思いがデザインされているんだと思います。

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「デザイン」と
デザインのための「対話」

——そのお話、ものすごく興味深いです。カオスパイロットで教えられていることにはデンマークの価値観や思考が含まれているんですね。カオスパイロットでも、「対話」を必要とする場面はあったんですか?

カオスパイロットには、海外で3ヶ月間、社会貢献のプロジェクトに取り組む授業があって同じ学年のチームが全員で南アフリカへ移ったことがありました。南アフリカは人種隔離政策であるアパルトヘイトの歴史があるため、黒人と白人が分断された状況が過去にあって。

表面的には解決しているように見えても、実際に話を聞いてみるとまだ言語化されていない確執が残っているんですね。それは日常生活の中にも感じられるもの。たとえば、黒人の人が裸足だったり、ちょっと服装が悪かったりするとお店に入れてもらえなかったりするのですが、白人の方が同じ格好をしていても、入れたりする。そこで、私たちは「どうしたらこの問題に国として一丸となって取り組んでいけるのか?」を地域の単位と企業やNPOの単位でできることに分けながら。対話重視のプロセスを通して、実践していきました。 

——対話というと、なんとなく「話しあう」くらいしかイメージがつかないんですが、どういうものなんですか?

対話は、相手の価値観を知り、受け入れ、そして自分の価値観を知り、伝えるという相互の関係性の中から生まれるものです。必ずしも明確なゴールはなくてもいい。自分と違う価値観を持つ人対面したときに、その人たちのありのままをまずは受け入れ、共生していくためのものだと思います。

南アフリカでは、自分の価値基準だけで相手の考えを想像するだけでなく、実際に現地の人たちと「あなたの夢は何?」「今どんなことを思っているの?」といった対話を通じて、相手を知ることを経験しました。すると、課題だとみんなが思っていることも、話している内にそれは本当の課題じゃないことに気づく場合もあるんですね。誰のための、何のためのデザインか。それを深堀して知ることが、デザインの第一歩である、相手に「共感する」ことなんです。そして、デンマークでは、そのことが確立されていると私は思います。

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「誰かがリードする」のではなく
「全員が自分をリードする」チームへ

——対話から本質を理解しようという風土があるからこそ、問題解決のためのデザインができるということですよね。実際にプロジェクトを進める上で大本さん自身が意識していらっしゃることってありますか?

チームにいる人たちってそれぞれ全然価値観が違ったりするじゃないですか。結果ひとつ取ったって、プロセス重視の人もいれば、成果重視の人もいて。カオスな状況の中で、どうやって一つの意見にまとめるか、合意形成をするのかって、正解はないですよね。

私がカオスパイロットで南アフリカに行ったときも、もうぐちゃぐちゃで。南アメリカは公用語が11言語もあって、多様な価値観で社会は構成されている。そこに働きかける私たちも、カオスパイロットのスイス校と合同だったので、チームもまたいつもと異なるし、デンマーク校とは学びの価値観も異なるので、本当に多種多様で。自分が予期できないことが日々当たり前のように起こる、精神的にも身体的にもハードな状況でした。でも、そのときに初めて、そういう環境で何か新しいことを生み出すときには、とにかく物事をシンプルに捉えることが大事だと思ったんです。

そんなとき、何を意識してコミュニケーションを取ればいいのか?
私は3つの重要なことがあると思います。

①自分がそこで求められていることは何か
②自分がそこで貢献できることは何か
③相手が貢献できることは何か

チームが多様化している中ではそれぞれが持っているクリエイティビティも違えば、発揮の仕方だって違う。だからこそ、シンプルな問いを自分の中に持って目の前のことにぐっと集中したり、自分の中にぶれない羅針盤を持つことが自身のクリエイティビティを引き出すことに必要なんだと思います。

チームの中のある特定の人だけがクリエイティビティを発揮するのではなく、違う価値観の人が集まったチームであったとしても、全員が創造的な結果を生み出すこと。これがデンマークで学んだ、クリエイティブ・リーダーシップのあり方です。決まり切ったリーダーシップ論でも、ビジネススクールで教わるようなケーススタディでもなくて、重要なのは「自分が自分をリードすること」。それは自分の哲学を語ることでもあり、「何をするのか?」以上に「なぜやるのか?」の本質を語りかけることだったり、自分が事例となってまずはやってみせることだったり。

実はそれって他人を受け入れることにもつながることだと思うんです。メンバー全員が自分をリードすることができるようになるとそれぞれの個性が際立ってくる。だからこそ自分だけでなく他者が自分をリードすることの両方を許しあう環境がなければ、特定の人の考えで物事が進んでいってしまうことになります。価値観が多様化して、その価値観の数だけ答えがあるという状態から、それぞれの答えを掛け合わせて新たなものを作っていく。その結果、クリエイティブな結果を生み出すことができると考えています。自分自身を語ることと、相手を受け入れて理解すること、それぞれが融合することで創造的な結果が生まれるんだと思います